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中国が抱え続ける不安と不満(1)【中国問題グローバル研究所】
2025/07/16 16:19
*16:19JST 中国が抱え続ける不安と不満(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。
※この文章は7月7日の<China’s Continuing Discomfort>(※2)の翻訳です。
イラン
数カ月前のこのコラムで、長年続いてきた規範や外交の基本姿勢がトランプ大統領の無作法かつ神経を逆なでする流儀により覆され、中国が不安と不満を強めていることを取り上げた。それ以降も、トランプ氏は文字通りやりたい放題、言いたい放題で、大統領の権力をふりかざすリアリティショーが日々続いている。トランプ氏による多くの問題が及ぼす真の影響を把握するにはまだ早いが、この数週間ないし数カ月に起きた事態を受けて、中国首脳部の不安や不満が和らいだはずがない。
イランのウラン濃縮に不可欠な3施設の空爆はとてつもなく大胆で、世界中を驚かせ、戦術的にも成功したと言える。イランはかねてから中国とロシアを強く支持しており、3カ国は欧米の資本主義と米国を声高に批判してきた。北朝鮮を含めた4カ国はCRINK(China、Russia、Iran、North Korea)と呼ばれることもある。ウクライナ問題に関しては、イランはロシアへの(ドローン技術を中心とした)軍事装備品の主要供給国であり、北朝鮮は何千人もの兵員を派遣してロシアを支援している。対して中国は、殺傷能力のある武器をロシアに提供していないと相変わらず主張している。
中国はイランが輸出する石油の大半を購入して長年にわたり経済的に支えてきたほか、サウジアラビアとイランの国交回復の仲介役ともなった。この国交回復は中国の功績であり、中国以外にこの仲介役を果たせる国はなかったと評価された。
トランプ氏がイラン空爆を命じた背景にある理由は何か。それはこのコラムの焦点ではない。イスラエル政府にそそのかされたのか。攻撃を正当化する何らかの深謀があったのか。今回のコラムの趣旨から若干外れるが、その最大の成果は、トランプ氏がいかにも彼らしい立ち回りを見せ、米国本土から精密爆撃を実施して見事に成功させ、その後は外交力を発揮してイスラエルとイランに停戦合意させたことである。今後数週間か数カ月で状況が大幅に悪化するおそれもあるとはいえ、こうした成果は予想外であり、トランプ氏の勝利である。
一方、中国はこうした状況をどう見ているのか。CRINKは4カ国を表す便利な略語だが、結びつきは比較的緩く、もちろん軍事同盟ではない。中東の反欧米のパートナーが、イスラエルに次いでトランプ氏によっても牙を抜かれたとなれば、中国は歯がゆさを感じるはずだ。イラン政府はまだ存続しているし、少々の爆撃を受けただけで崩壊することはない。だがイランの政権と立場が大きな打撃を受けたことは間違いなく、これは中国政府にとって歓迎すべきことではない。
そもそもトランプ氏がイランを攻撃したことは驚きであったにちがいない。トランプ氏は戦争嫌いを度々公言し、米国を海外の紛争に関与させないと繰り返し言ってきたにもかかわらず、比較的早い段階で軍事行動を決め、見事に実行した。今回の作戦の後方支援は米軍だからこそできたことだ。爆撃機が36時間飛行する間に複数回の空中給油を行い、13トンの爆弾で複数回の精密爆撃を成功させる。米国は落ち目だと考えている国に強烈な印象を与えたはずだ。
イランの核開発計画は、トランプ氏が主張するように「完全に葬り去られた」のだろうか。もちろんそんなことはない。濃縮済みウランは見つかったのか。答えは「ノー」。これで問題はすべて解決したのか。答えはやはり「ノー」。だがトランプ氏は主導権を奪い、予想外の成果を上げた。中国は今、台湾海峡有事にトランプ氏がどのような反応を見せるかを考えているにちがいない。トランプ氏がいかに戦争嫌いであろうと、米国が消極的な姿勢を示すとは考えられない。
貿易戦争
中国はトランプ氏の関税戦争の主な標的であり、ジュネーブとロンドンでの2回の交渉と合意があってもそれは変わらない。両国の関税率は、4月時点の非現実的な3桁台から引き下げられたものの、「解放の日」後に発表された3カ月間の相互関税一時停止期限である7月9日が近づくなか、貿易政策が争点として再浮上する可能性がある。過去数週間に両国間で合意された条件ですらまだすべてが公表されたわけではないが、中国の産業政策と重商主義が主な原因である世界貿易の不均衡の実態には何の対応も取られていない。トランプ氏は中国と取引(ディール)したと主張するかもしれないが、その内容は極めて乏しく、彼自身が引き起こした問題を解消したにすぎない。
市場はトランプ氏による貿易攻撃が概ね終了したと判断しており、米国株式市場では終値が史上最高値に後一歩のところまで迫ったが、一方で中国が満足していないことは明らかである。「解放の日」は貿易に関して米国政府に相次ぐディールをもたらすにはいたらなかったが、取引がまったく成立しなかったわけではない。なかでも注目すべきは、米国とベトナムが先ごろ署名した関税協定である。この協定では相互関税が当初の提案の46%から20%に引き下げられたものの、第三国からの積み替え品には引き続き40%の関税が課せられる。これは中国産であることを隠すために第三国経由で積み替えをしている中国に特に影響を及ぼすと考えられる。この協定では中国を名指ししてはいないが、明らかに自国を標的としたものだと中国当局は理解し、これに反応を示している。中国商務省は「我々は中国の利益を犠牲にして取引するいかなる者にも強く抗議する」と述べ、さらに、フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、「このような状況が生じれば、中国は断固たる対抗措置を講じて自国の当然の権利と利益を守る」とも述べている。
この発言は、ジュネーブとロンドンでの合意がいかなる内容のものであれ、貿易政策の行方を心穏やかに見守っている国のそれとは思えない。貿易と「世界の工場」。過去20年間、この2つが中国の代名詞であった。その事実が簡単に消え去ることはなく、また隠すこともできない。第一次トランプ政権は中国による貿易上の不正行為を率先して激しく非難した。国内政治問題で米国議会の分断が深刻化しているとはいえ、中国ほど議会を団結させる問題はない。中国が依然として懸念を抱くのは当然といえる。
「中国が抱え続ける不安と不満(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: 米がイラン核施設3カ所を攻撃 米空軍が写真公開(2025年6月撮影・提供写真)(提供:U.S. Air Force/ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/6446
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◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)フレイザー・ハウイーの考察を2回に渡ってお届けする。
※この文章は7月7日の<China’s Continuing Discomfort>(※2)の翻訳です。
イラン
数カ月前のこのコラムで、長年続いてきた規範や外交の基本姿勢がトランプ大統領の無作法かつ神経を逆なでする流儀により覆され、中国が不安と不満を強めていることを取り上げた。それ以降も、トランプ氏は文字通りやりたい放題、言いたい放題で、大統領の権力をふりかざすリアリティショーが日々続いている。トランプ氏による多くの問題が及ぼす真の影響を把握するにはまだ早いが、この数週間ないし数カ月に起きた事態を受けて、中国首脳部の不安や不満が和らいだはずがない。
イランのウラン濃縮に不可欠な3施設の空爆はとてつもなく大胆で、世界中を驚かせ、戦術的にも成功したと言える。イランはかねてから中国とロシアを強く支持しており、3カ国は欧米の資本主義と米国を声高に批判してきた。北朝鮮を含めた4カ国はCRINK(China、Russia、Iran、North Korea)と呼ばれることもある。ウクライナ問題に関しては、イランはロシアへの(ドローン技術を中心とした)軍事装備品の主要供給国であり、北朝鮮は何千人もの兵員を派遣してロシアを支援している。対して中国は、殺傷能力のある武器をロシアに提供していないと相変わらず主張している。
中国はイランが輸出する石油の大半を購入して長年にわたり経済的に支えてきたほか、サウジアラビアとイランの国交回復の仲介役ともなった。この国交回復は中国の功績であり、中国以外にこの仲介役を果たせる国はなかったと評価された。
トランプ氏がイラン空爆を命じた背景にある理由は何か。それはこのコラムの焦点ではない。イスラエル政府にそそのかされたのか。攻撃を正当化する何らかの深謀があったのか。今回のコラムの趣旨から若干外れるが、その最大の成果は、トランプ氏がいかにも彼らしい立ち回りを見せ、米国本土から精密爆撃を実施して見事に成功させ、その後は外交力を発揮してイスラエルとイランに停戦合意させたことである。今後数週間か数カ月で状況が大幅に悪化するおそれもあるとはいえ、こうした成果は予想外であり、トランプ氏の勝利である。
一方、中国はこうした状況をどう見ているのか。CRINKは4カ国を表す便利な略語だが、結びつきは比較的緩く、もちろん軍事同盟ではない。中東の反欧米のパートナーが、イスラエルに次いでトランプ氏によっても牙を抜かれたとなれば、中国は歯がゆさを感じるはずだ。イラン政府はまだ存続しているし、少々の爆撃を受けただけで崩壊することはない。だがイランの政権と立場が大きな打撃を受けたことは間違いなく、これは中国政府にとって歓迎すべきことではない。
そもそもトランプ氏がイランを攻撃したことは驚きであったにちがいない。トランプ氏は戦争嫌いを度々公言し、米国を海外の紛争に関与させないと繰り返し言ってきたにもかかわらず、比較的早い段階で軍事行動を決め、見事に実行した。今回の作戦の後方支援は米軍だからこそできたことだ。爆撃機が36時間飛行する間に複数回の空中給油を行い、13トンの爆弾で複数回の精密爆撃を成功させる。米国は落ち目だと考えている国に強烈な印象を与えたはずだ。
イランの核開発計画は、トランプ氏が主張するように「完全に葬り去られた」のだろうか。もちろんそんなことはない。濃縮済みウランは見つかったのか。答えは「ノー」。これで問題はすべて解決したのか。答えはやはり「ノー」。だがトランプ氏は主導権を奪い、予想外の成果を上げた。中国は今、台湾海峡有事にトランプ氏がどのような反応を見せるかを考えているにちがいない。トランプ氏がいかに戦争嫌いであろうと、米国が消極的な姿勢を示すとは考えられない。
貿易戦争
中国はトランプ氏の関税戦争の主な標的であり、ジュネーブとロンドンでの2回の交渉と合意があってもそれは変わらない。両国の関税率は、4月時点の非現実的な3桁台から引き下げられたものの、「解放の日」後に発表された3カ月間の相互関税一時停止期限である7月9日が近づくなか、貿易政策が争点として再浮上する可能性がある。過去数週間に両国間で合意された条件ですらまだすべてが公表されたわけではないが、中国の産業政策と重商主義が主な原因である世界貿易の不均衡の実態には何の対応も取られていない。トランプ氏は中国と取引(ディール)したと主張するかもしれないが、その内容は極めて乏しく、彼自身が引き起こした問題を解消したにすぎない。
市場はトランプ氏による貿易攻撃が概ね終了したと判断しており、米国株式市場では終値が史上最高値に後一歩のところまで迫ったが、一方で中国が満足していないことは明らかである。「解放の日」は貿易に関して米国政府に相次ぐディールをもたらすにはいたらなかったが、取引がまったく成立しなかったわけではない。なかでも注目すべきは、米国とベトナムが先ごろ署名した関税協定である。この協定では相互関税が当初の提案の46%から20%に引き下げられたものの、第三国からの積み替え品には引き続き40%の関税が課せられる。これは中国産であることを隠すために第三国経由で積み替えをしている中国に特に影響を及ぼすと考えられる。この協定では中国を名指ししてはいないが、明らかに自国を標的としたものだと中国当局は理解し、これに反応を示している。中国商務省は「我々は中国の利益を犠牲にして取引するいかなる者にも強く抗議する」と述べ、さらに、フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、「このような状況が生じれば、中国は断固たる対抗措置を講じて自国の当然の権利と利益を守る」とも述べている。
この発言は、ジュネーブとロンドンでの合意がいかなる内容のものであれ、貿易政策の行方を心穏やかに見守っている国のそれとは思えない。貿易と「世界の工場」。過去20年間、この2つが中国の代名詞であった。その事実が簡単に消え去ることはなく、また隠すこともできない。第一次トランプ政権は中国による貿易上の不正行為を率先して激しく非難した。国内政治問題で米国議会の分断が深刻化しているとはいえ、中国ほど議会を団結させる問題はない。中国が依然として懸念を抱くのは当然といえる。
「中国が抱え続ける不安と不満(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: 米がイラン核施設3カ所を攻撃 米空軍が写真公開(2025年6月撮影・提供写真)(提供:U.S. Air Force/ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/6446
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