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マクセル Research Memo(6):目玉は「モビリティ」「ICT/AI」「人/社会インフラ」と全固体電池(2)

*14:36JST マクセル Research Memo(6):目玉は「モビリティ」「ICT/AI」「人/社会インフラ」と全固体電池(2)
■中期経営計画

(2) 新事業
新事業について、マクセル<6810>はロードマップに合わせて開発ステージに沿った管理を実施しており、第1フェーズのMEX23では小型のセラミックパッケージ型全固体電池の事業化をスタートした。第2フェーズのMEX26では、発泡成形、コイン形全固体電池、中型全固体電池、全固体電池モジュール、EMC対策部材の製品化を目指す。全固体電池に関しては、足元では特に小型セルのモジュール化と中型セルの開発に注力しており、FA機器やインフラ・プラント設備向けなど用途開拓を進めている。さらに、電池の寿命、耐熱性、容量を進化させることで持続可能社会の実現に貢献することを目指し、第3フェーズ(2027年度〜2029年度)では、大型全固体電池(バイポーラ構造)、ハーベスティング複合全固体電池モジュールの製品化を進める。このように経営資源の多くが全固体電池に投入される予定だが、一方で、生物由来プラスチックやCO2資源化システムなどの面で高度化したアナログコア技術の適用を進めるなど、全固体電池に続くテーマの立ち上げも狙っている。なお、ロードマップに合わせて2030年度までに100億円を新事業に投資し、全固体電池で売上高300億円を目指す。

大型の全固体電池は、自動車バッテリーとして大手自動車メーカーを主軸に開発が進んでいるが、同社はアナログコア技術を応用しやすく実現可能な小型からアプローチしている。全固体電池の電解質は粉体を圧縮してつくられるため、サイズが大きくなると粉体を押しかためる難易度が上がるという課題がある。同社の全固体電池は硫化物系でアナログコア技術を使って押しかためており、安全性への配慮は必要だが大容量・高出力に向いている。一方、競合他社は酸化物系が多く、熱でかためるため安全性は高いものの大容量・高出力に不向きとされている。競合他社は依然開発レベルのため、全固体電池を事業化できたのは同社だけと言え、特に小型の全固体電池において競合がいないという状況である。全固体電池の事業化で先駆けることができたのは、混合分散や高密度成形に加え気密封止といった技術による高耐熱・長寿命・絶対的な安全性と信頼性、さらに材料開発や保護回路開発など上流・下流企業との協力関係の強みが背景にあると言える。

このため同社は、事業環境が厳しい民生用リチウムイオン電池のリソースを全固体電池にシフトしており、2023年6月に幅広い温度帯で使用可能なセラミックパッケージ型全固体電池の量産品の出荷を開始、2024年5月には作動上限温度を150℃に引き上げる技術開発に成功したことを発表するに至った。MEX26ではコイン形全固体電池、中型全固体電池、全固体電池モジュールなどの実用化を計画しているが、2025年3月期はFA機器向け8mAhコイン形全固体電池の本格量産を開始する予定で、既存顧客のみならず新規顧客からの引き合いも強いようだ。とはいえ、既に200mAhまで開発を進めており、2030年までに難易度の高いAGV向け1Ahへの大容量化とその量産技術を確立する計画で、実現すれば市場が大きく変わるきっかけになるとも言われている。ただし、自動車バッテリー用の大型全固体電池は、マーケットは大きいもののさらに難易度が高くなるうえ、各社が入り乱れた主戦場になっているため、同社は今のところ参入を控えているようだ。

(3) 営業
営業の基本方針として、人財育成や人財投資を重点的に強化してグローバルな技術営業体制を構築し、注力3分野の顧客課題を解決することで事業拡大につなげていく考えである。人財面では、新規主要顧客を開拓する「マーケティング・開拓人財」と、顧客課題を解決する「技術営業人財」を育成していく。マーケティング・開拓人財の強化によって、BtoBマーケティングや顧客開拓活動を推進して欧米やアジア、国内の顧客ニーズを掘り起こす。加えて、デジタルマーケティングによって顧客とのコミュニケーションを増やし、より適切な情報収集・情報提供を進めていく。さらに技術営業人財の強化によって、開発フェーズから技術提案することで顧客とのリレーションを強化するとともに、技術交流会やキャラバン活動を通じて顧客ニーズを的確に把握してソリューションにつなげていく。顧客の技術課題を解決するためには、特に技術営業が欠かせないと考えているようだ。

(4) 経営基盤
MEX23で全社共通となった基幹システムをベースに、MEX26では業務効率化のみならず、事業成長を支える経営基盤として人的資本、DX、知的財産戦略、サステナビリティ組織の強化にも取り組む。

人的資本の強化では、「一人ひとりの長所を伸ばし」「チームとして仕事をし」「難しい課題に挑戦する」人財を育成するため、多様な人財の獲得、適正な配置、経営参画意識の向上、挑戦を認める風土の醸成、働きがいのある職場環境の整備など、持続的な育成に対して優先的に投資を実行する計画だ。DXの強化では、MEX23で基幹システムの整備によって販売・調達・生産・会計などの情報を統合したが、MEX26では、そうした環境を土台にDXをさらに進化させ、業務・生産・意思決定の領域における課題を解決し、働き方改革や労働生産性の向上を加速する考えだ。これにより、業務領域では、事務作業の自動化や申請・承認作業の省力化・ハンコレス化、生成AIなどで業務を効率化し、アイデアを創造する時間や社内外におけるコミュニケーション時間を確保する。生産領域では、工場や各生産工程のスマート化/IoT化によって操業状況を見える化し、製造装置などのデータや日報・品質管理情報を集約して分析し、工場の生産性最適化や製造ロス・製造コストの低減につなげる。意思決定領域では、会議やレポートの高効率化により事業状況の変化をより早く正確に察知するとともに、予算・計画・実績などの情報の高精度化を進めて戦略のための議論を深めていく。

知的財産戦略では、MEX23で知財価値を最大化するサイクルを強化して次世代の特許群構築の仕組みづくりに着手したが、MEX26では、知的財産のための人財力・組織力を強化すると同時に、知的財産価値を最大化する取り組みを通じて中長期に収益貢献できる特許群を構築していく。サステナビリティ経営の推進では、MEX23でマテリアリティ・KPIの特定、環境ビジョンの制定など新たな法規制や社会要請への対応を実施したが、MEX26では、経済価値と社会価値の両立を視野にマテリアリティ・KPI達成に向けたアクションを着実に実行することで、持続的成長を目指す。特に環境問題に関して、「マクセルは、イノベーションの追求を通じて“脱炭素社会”と“循環型社会”の達成を目指し、誰もが安心して暮らせる持続可能な社会の実現に貢献します」との環境ビジョンを設定しており、2030年度までにCO2排出量削減率50%以上(2013年度比)、2050年度までにカーボンニュートラルの達成を目指す。また、循環型社会の達成に向けた取り組みとして、廃棄物生産高原単位0.0450トン/百万円(2021年度比19%削減)の達成及び複合プラスチック廃棄物のリサイクル開始を目指す。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)



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